第二章 彼の名は…

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「す、すみません! 大丈夫でしたか!? つい手がぶつかっちゃって!」 「あ…」  その植木鉢がアパートのベランダから落下してきたものだとわかると、 じわじわと恐怖感が押し寄せてきた。 「お前、いっつもあんなボーッとして歩いてるの?」 「な……」 「俺が助けてやったんだから、そんな怖がるなって」  綾は粉々になった植木鉢を呆然と見つめながら、 状況を把握するのに精一杯だった。 「あなたは一体誰なの? さっきも学校で会った気がするけど?」  恐怖で収縮した喉をこじ開けて、 綾は目の前で不敵に笑っている青年に言った。  自分がこんな怖い思いをしたというのに何でそんな笑っているのか、 軽く苛立ちさえ覚えた。 「俺は、打瀬雅」 「打瀬…? W大の学生さん?」 「うーん、どうかな…まぁ、そんな感じ? もう、平気だろ? じゃあな」 「あ、待って!」  打瀬雅と名乗った自分よりも若干年上の青年。 綾は打瀬の後を追って角を曲がったが、 そこは薄暗い今来た道が伸びているだけだった。 『打瀬雅…私を呼び止めたのはこの植木鉢のせい?』  だとしたら、何故ここに、このタイミングで植木鉢が落ちてくることを知っていたのか…。 不思議に思いながらも、 もしかしたらこの植木鉢が自分の頭を直撃していたかもしれないと、 そう思ったら身の毛もよだって、 身を掻き抱きながら綾はアパートに帰った。
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