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大学に行く途中に、綾がいつも通っている書店がある。
『あ、あった! 秋川楓の新刊!』
秋川楓はプロフィールどころか、
著者が男性なのか女性なのかすら一切不明の異色の恋愛小説家で、
綾は中学生の頃から愛読していた。
姿を見せない謎の小説家に、
綾は少なくともミステリアスな興味を抱いていた。
「これ、ください」
「はい、ありがとうございます、あ、秋川さんの新刊、私も読みましたよ」
「え?! 本当ですか!? 前作もよかったけど、今回の新作は切ない恋愛ものだって聞いてて、ちょっと期待してたんです」
毎回通う度に、すっかり顔なじみになってしまい、
今では愛読思考の同じ店員と親しく話す仲にまでなってしまっていた。
極力余計な会話をするのを避けていたが、秋川楓のことになると、
綾もつい浮かれて多弁になってしまう。
「今回のはもっとグッくる内容でしたよ~ あの場面とか~本当、感動しちゃって!」
『うう~、授業中読んじゃおうかな…あぁ~ダメダメ、試験が近いんだった…』
綾は盛り上がる店員の誘惑を振り切って、大学へ向かった。
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