第三章 疑惑の男

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『雨の中、悟は奈央を抱きしめながら言った。  「俺の心臓の音聞こえる? 心臓の音って相手を安心させる効果があるんだ…」 奈央はきつく抱きしめ返すと、確かに悟の鼓動が―――』 「綾、綾!?」 「あ、え?」  沙織の声に慌てて我に返ると、そこはいつもの教室内で、 綾の苦手な教授が教鞭をとっていた。 「あんた、教科書カバーしながら恋愛小説読むとかベタすぎでしょ! さっきから教授こっち睨んでるよ」 「ご、ごめん」 『あぁ~、今一番いいとこだったのにぃ~これからこの二人はどうなっちゃうんだろ…気になるよぅ』  試験が近いというのに、綾は講義の半分以上、 先ほど購入した秋川楓の新作「安堵の心音」に没頭していた。 『秋川楓…かぁ、一体どんな人なんだろ、昔ファンレター出したことあったけど、結局返事こなかったなぁ』  秋川楓の本を読む度に、一体どんな人物なのか想像しては憧れの詰まったため息をついていた。
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