第一章 追憶の香り

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こういう時、なんて答えればいいのかは知っている。 だけど、毎回言葉に詰まるのは、 多少罪悪感を感じているからなのか、 相手を傷つけまいと配慮しようとしているからなのか、 綾にはわからなかった。 「ごめんなさい、私、今は誰とも付き合う気ないの」   散々考えた挙句、口をついて出た言葉は、 そんなそっけないものだった。    自分を好きだと言ってくれる気持ちは嬉しい、 けれど綾は笑ってその言葉に頷く事ができなかった。 「そ、そうなんだ、ごめん無理言って、今の忘れてくれていいから、その…また、明日な、じゃあね」 「う、うん」  湯浅は気まずさを隠すように乾いた笑みを綾に向けつつ、 部屋から出ていってしまった。 『私のしたことは、間違ってない』  綾はこの瞬間、いつも自分にそう言い聞かせていた。 でなければ、罪悪感に押しつぶされてしまうのではないかと 錯覚してしまう。
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