第二章 彼の名は…

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大好きだった福田先輩―――。  高校二年の春、綾は卒業間近の先輩に意を決して告白した。 けれど、先輩にはすでに彼女がいた。 その彼女の前でひどいフラれ方をして、どしゃぶりの雨の中、 泣きながらがむしゃらに走って、 途中で知らない男の人にぶつかったのを覚えている。 『好きになって、想いを告白するのに1年かかった。 だけど、フラれる時は一瞬だ』  綾はそれ以来、人を好きになることを忘れた。 あんなに先輩を見るたびに心臓が高鳴って、 息もできないくらいだったはずなのに、 もうその感覚すら思い出せなかった。 『そういえばあの時、大切にしてたネックレスもどっかいっちゃったんだっけ…あの日ほど厄日に思ったことないな…』  伏し目がちになって過去を振り返っている綾を、 沙織は何も言わずいつまでも見据えていた。
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