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「国を建てるぞ」
「は?」
暑い月から涼しい月にかわる頃、彼は突然そんなことを言いはじめた。
きっかけなど無い。
唐突に告げられたその言葉にアリアスは耳を疑った。
「国を建てるぞ」
「いや、何度も言わなくてもわかってるけど・・・なんで?」
「何でも糞もあるか。お前と会ってから一ヶ月くらいたったがまるで人間どもが襲ってこねぇじゃねーか」
「それはーー」
「それはお前らとは違う魔族の部隊が人間と交戦していてこっちに割く人員が足りないからだろ?聴き飽きたぜそのセリフ。俺はそんな与太話が聴きてぇんじゃねぇんだよ。俺は俺をぶっ殺してくれる奴と会いたいんだよ」
「だからそうできるように昨日魔鳥飛ばして他の部隊に知らせを送ったんじゃない」
「あのな、俺は待つのが大っ嫌いなんだ」
ーーそんなの知らないわよ。
王様の自覚が無い秋春の行動や言動にやや疲れ気味のアリアスではあったが、彼に万が一の事があれば魔族は滅びる。
それだけは阻止しなければ。
「はぁ、つまんねぇ」
椅子に腰掛けて腕を頭の後ろで組む。
「悪かったわね。狩りでも行ってきたら?」
「もう飽きたんだよ・・・」
食料ならそれこそ無駄にある。
なにせ国まるごと奪い取ったのだ。
ナマモノを抜きにしても二人なら死ぬまで暮らせそうな量だ。
狩りなどする必要がないが、暇つぶしになりそうなことは狩りしかない。
この一ヶ月彼をこの国だったところに縛り付けるのに狩りが有効だったがこれからはまた別のものを考えなくてはならないようだ。
習慣になったため息をつくとアリアスは窓の外を見る。
ーー何か・・・何か・・・。
「ん?」
彼女は見つけてしまった。
暇つぶしになりそうな何かを。
「どうした?」
「い、いえ・・・なんでもーー」
アリアスの表情を見てか、秋春の表情が満面の笑みに変わる。
こういう時の彼の勘は凄まじい。
獰猛な獣のような瞳にアリアスは息を呑んだ。
「行くぞ」
彼はドアからでなく窓から飛び降りた。
ここは城の4階。
魔族でも足の骨が心配される高さから迷いなく飛び降りた秋春は特に痛がるわけでもなく着地した。
慌てて窓から顔を出すアリアスだったが無事なのを確認して一言
「やっぱり人間じゃないわね」
っと呟いた。
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