第弐話 最強の武人

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やり取りをただ茫然と見ていた。 「…貴様、ただで済むと思うなよ?」 大男の顔は怒りに染まっている。 担いでいた戦斧を地面へと下ろし、今すぐにでも殺すぞとでも言うかのように睨み付けていた。 対して彼女はと言うと、屍となった賊の使っていた槍を拾い、ただ男を呆然とした目で見ていた。 「…戦うの、恋じゃない」 男はまさかの台詞に驚愕。 彼女はというと、槍を持ち此方へと歩み寄る。 目の前へと来ると、槍を俺に渡して来た。 「…戦う」 「…へ?」 そのまま槍を無理矢理持たされ、そのまま背中を押された。 前にいるのはあの大男。 「…ふん。民を生け贄にし自分は生き延びるつもりか?とんだ腰抜けだな」 大男は彼女を見下すかのように笑った。 その行動に、何故か俺は苛立った。 何故か分からない。 ただ目の前の男に、苛立った。 「…勘違いするなよ?」 気が付いたら自然と口が動いていた。 普通ならば考えられない、人をこんな危険な場所に放りこんでと、普通ならば怒り、目の前の大男に恐怖する筈だ。 しかし、怒りの矛先は彼女ではなく、この大男に向いた。 「貴様如き、この俺だけで十分だという事だ」 自然と動いたこの口。 後悔するはずなのに後悔が無い。 これはきっと、憑依した臧覇という奴の言葉なのだろうか。 「…貴様、どうやら殺されたいようだな?」 大男の矛先も俺へと向けられた。 もう逃げられない。 だが… 「…後悔は無い。ただ俺は、目の前の敵を倒すまで」 粗末な槍を大男に向けて構える。 対する大男も、戦斧を構えて殺気らしきものを飛ばしてくる。 「ふん。その身体で我が一撃を受け止められるとでも思っているのか?」 初めてとなるであろう本場の戦い。 相手を殺すか、それとも自分が殺されるか。 初めて経験する戦が、始まろうとしていた。
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