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やり取りをただ茫然と見ていた。
「…貴様、ただで済むと思うなよ?」
大男の顔は怒りに染まっている。
担いでいた戦斧を地面へと下ろし、今すぐにでも殺すぞとでも言うかのように睨み付けていた。
対して彼女はと言うと、屍となった賊の使っていた槍を拾い、ただ男を呆然とした目で見ていた。
「…戦うの、恋じゃない」
男はまさかの台詞に驚愕。
彼女はというと、槍を持ち此方へと歩み寄る。
目の前へと来ると、槍を俺に渡して来た。
「…戦う」
「…へ?」
そのまま槍を無理矢理持たされ、そのまま背中を押された。
前にいるのはあの大男。
「…ふん。民を生け贄にし自分は生き延びるつもりか?とんだ腰抜けだな」
大男は彼女を見下すかのように笑った。
その行動に、何故か俺は苛立った。
何故か分からない。
ただ目の前の男に、苛立った。
「…勘違いするなよ?」
気が付いたら自然と口が動いていた。
普通ならば考えられない、人をこんな危険な場所に放りこんでと、普通ならば怒り、目の前の大男に恐怖する筈だ。
しかし、怒りの矛先は彼女ではなく、この大男に向いた。
「貴様如き、この俺だけで十分だという事だ」
自然と動いたこの口。
後悔するはずなのに後悔が無い。
これはきっと、憑依した臧覇という奴の言葉なのだろうか。
「…貴様、どうやら殺されたいようだな?」
大男の矛先も俺へと向けられた。
もう逃げられない。
だが…
「…後悔は無い。ただ俺は、目の前の敵を倒すまで」
粗末な槍を大男に向けて構える。
対する大男も、戦斧を構えて殺気らしきものを飛ばしてくる。
「ふん。その身体で我が一撃を受け止められるとでも思っているのか?」
初めてとなるであろう本場の戦い。
相手を殺すか、それとも自分が殺されるか。
初めて経験する戦が、始まろうとしていた。
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