第参話 武

3/4
前へ
/24ページ
次へ
りたいと、そう思う。 それと同時に、彼をもっと育てたいと、その気持ちが彼を見れば見る程に大きいものとなっていく。 彼の武は、この世にどのような影響を与えるのだろうか。 賊頭の振るわれる戦斧を軽く避ける彼。 賊頭の攻撃は威力が大きい代わりに遅く、避けやすい。 だが、民からは勿論、訓練している兵ら辺りは賊頭の攻撃など見切れないだろう。 彼は無自覚だろうが、彼はその賊頭の攻撃を避けれる程の力を持っている。 賊頭も、それ程の力が無くては頭などにはなれない、それに軍と違い、賊は力こそが全て。 つまり、賊頭はその賊の切り札。 だが、彼はその切り札を圧倒する力。 賊頭は部隊長程度の力、そして彼は武将までいける力を持っている。 なんとも不思議。 今思えば偶然見つけたこの村で偶然、興味深いものをみつけた。 こんな偶然、あるものだろうか。 それとも、これは運命なのか。 前を向けば、彼は賊頭の蹴りを避け、槍の刃のついていない、その部分を使い、攻撃を加える。 やはり、まだ殺す事を躊躇っているのだろう。 当然と言えば当然、初めての殺しなぞ、軽く出来るものではない。 それは私自身、よく知っている事だ。 けど、誰かを守るためには力を使い、相手を殺す事も必要なのだ。 その事を、彼にも教えなければならない。 果たして彼は、初めての『殺し』という罪を背負う事が出来るのか。 賊頭が彼に怒鳴り、いつの間にか集まった賊共も、彼に怒鳴る。 五月蝿い、耳障り。 早々に決着をつけられるのか、何だかんだ、私も楽しみにしていた。 彼は、決着をつけるのだろう。 踏み込み、そのまま賊頭へと槍を構えた。 賊頭さえ倒せれば、決着はつく筈。 俺の突撃は大男を驚愕させるが、直ぐに落ち着き、得物を縦に振り下ろしてきた。 「遅い、俺には当たらん!」 右へと避け、そのまま槍の柄の部分で相手の腹部へと突く。 勢いもあり、ダメージは大きかったようで、相手は体がくの字に曲がる。 それに追撃をかけ、そのまま顔面を殴り飛ばす。 「ガハッ!この、野郎!」 相手は踏みとどまり、倒れる事は無かった。 だが、相手の怒りは頂点に達した。 顔を真っ赤にし、今まで受けた攻撃の中で、一番速く、威力の高いであろう横一閃を繰り出してきた。 最後だ。 「大振りでは俺には当たらん。まだ学べていなかったのか?」
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加