第参話 武

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だが結局は読む事は容易い。 構えが長く、大体ここ辺りにくるなと予測出来る。 「我が名は臧 宣高」 踏み込み、相手の手元辺りに槍を突き、軌道を変えさせる。 槍は脆く、木でできており、真っ向から防ぐと槍は斬られ、そのまま俺が真っ二つとなる。 結果、相手の戦斧は俺の体へと当たる前に、地面にめり込んだ。 「何っ!?」 そのまま勢いに乗じ、槍の柄で相手の足を絡ませ、バランスを崩させる。 それに俺の拳を思いっきりぶつけ、流石の相手も耐えきれずに地面へと倒れる。 そこに相手の首に槍の刃を向ける。 「これが、貴様を倒した名だ」 「ぐっ!?」 相手、賊頭は反撃しようにも首に刃が向けられている故に、動けずにいる。 賊共は茫然と、今のやり取りを見ていた。 賊は信じられない、そういう驚愕な表情をしている。 非常に有り難い、これは上手くすれば賊を追い払えるかもしれない。 構えを賊頭から賊共へと向ける。 途端、賊は一瞬表情が恐怖へと変わる。 「良いか、貴様らの頭は俺が倒した。貴様らは俺には勝てない。とっととこの村から出て行け」 その言葉をかける。 賊は一瞬、逃げ出そうとしてはいたのだが、結果は誰も逃げ出さなかった。 いや、表情が段々と良くなっていく。 寧ろ、勝ったとでも言わんばかりの表情。 何を間違えたのか、その時の俺は一切分からなかった。 それは次の瞬間に分かった。 「貴様は、臧 宣高とやらは馬鹿なのか?兎に角、俺を生かしておいたのが運の尽きだ」 低く、貶しているかのような笑い声。 後ろを振り向くと、そこには先程倒した賊頭が居た。 考えが甘かった。 ただ倒せば良い、そう思っていた。 「哀れだな、臧 宣高。貴様は俺に殺されろ」 賊頭の得物、戦斧が振り下ろされる。 反射的に、恐怖故か、槍を賊頭へと向けた。 槍は賊頭の腹を偶然、正に今振り下ろそうとしていた戦斧により体が若干前へと。 槍は賊頭の腹を突いた。 「ゴフッ」 賊頭は吐血し、そのまま槍が刺さったまま倒れた。 今、何をした? 俺は、人を、殺した? 途端、前に死体を見た時よりも気持ち悪く、苦しい吐き気に襲われる。 その苦しさは、俺の意識をおとすかのように辛い。 今何が起こり、何があったのか。 今、俺は人を殺したという事以外考えられなくなり、最後に見たのは逃げていく賊に、俺を見る彼女の姿だった。
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