第肆話 目標

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何かにくるまれている感覚だ。 暖かく、眠りを誘う程好い暖かさが感じられる。 願わくば、このまま眠っていたい、そう感じてしまう。 「…ん?」 ふと目を開ける。 日差しが目に差し、それを手で遮る。 見慣れた天井、周囲を見渡すと、いつも通りの寝るためだけの部屋があった。 多少収納出来る程度の、然程大きくない木箱に鏡。 そして、自分は今布団で寝ているのだと気づく。 「いったい、俺は」 何をしていたのか、そう呟こうとしたのだが、それが中断される。 思い出される出来事。 夜襲を仕掛けられ、襲われている民達。 逃げ惑い、それをにやけながら追いかける賊。 赤毛で、アホ毛が二本、直角のように飛び出している、無表情の女性に助けられた事。 賊頭と俺は戦った事。 そして、 「俺は、人をこの手で」 人を、この手で殺した。 感覚が蘇り、槍で人を突いた感覚が思い出される。 吐血する賊頭の姿。 倒れ、そして怯えて逃げていく賊。 吐き気はしないのだが、気分はとても冴えたものではない。 今、村はどうなっているのか、大半が遣られたか、逃げたかだとは思うが。 「兎に角、散歩がてら村はどうなっているかでも見に行きますか」 起き上がり、立ち上がろうとしたのだが、 「ん?」 立てない。 何かに倒されているというか、捕まれている。 下へと視線を向けると、昨日の赤毛の女性が、俺を掴みながら寝ていた。 彼女と視線が合い、しばしの沈黙。 そして沈黙を破ったのが彼女だが、彼女の言葉はとても体に力が抜けるものだった。 「…ん、起きた」 「……」 こいつ、鈍感なのか? それとも天然なのか? この言葉を聞いた途端に、体の力が急に抜けた。 何というか、別に騒がしくならない事に関してはよい事だ。 だが、もっと『キャー』とか、その叫び声一つ上げても良いと思うのだが。 苦笑しか出来ず、色々と複雑な意味を込めて、深い深いため息を吐いた。 「…ため息、め。幸せ、逃げる」 「あまり気にしないでいただきたい」 もう苦笑いしか出来ない俺であった。 「昨日は有り難うございます。貴女が来なければ、私はあの時既に遣られていた事でしょう」 俺と彼女は村を迂回しながら話している。 昨日あった出来事を振り返り、礼を述べる。 だが、彼女はそれに首を小さく、左右に振る。
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