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「…恋、もっと早く気付いていれば、助けられた」
「しかし、いくら貴女の武勇が凄まじいものだとしても、村人全員を救うなどとは無理な事。それに、確かに救えた者達も居ます」
いくつもの慰めの言葉、感謝の言葉を述べても、決して彼女は笑みを浮かべなかった。
村内の状態は確かに生き残りが居た。
しかし、子を探す母親、母親を求めて泣く子。
荒れた店々に、家族全員が生き残ったとしても、この村にはほぼ何も残っていない。
それに、賊に襲われるというトラウマを植え付けられ、その恐怖から逃げ出さんと荷物を纏める家族の姿。
彼女には言わないが、この村はほぼ壊滅だった。
「そ、それより、一度家に戻りませんか?貴女の武芸、私は見てみたいものですので」
「…ん」
彼女は、小さく首を頷かせた。
「…ふっ!」
「おお…」
家の裏で、彼女は自身の得物である、戟と思わしき武器を振り回す。
彼女の振るわれる武芸は素早く、力強い。
俺にとって、それは非常に魅力的で、そして憧れるもの。
彼女の舞いは、華という優しさを持ちながらも、虎という力を持っているかのようなもの。
簡単に纏めるのならば、それは『神』のようだ。
あらゆるものを圧倒し、無慈悲な力を持ちながらも優しさを兼ね備えた舞い。
「…ん、おしまい」
余りの素晴らしさに、拍手までして感情を表に出した。
「流石です!惚れ惚れするようなその武勇、美しくもありながら力強い舞い、お見事です!」
よく分からん事を口走っているが、俺はいつから武芸マニアになったんだ?
なんだろうか、確かにこの体で槍は振るえるのだが、そこまで武に俺は干渉していない筈。
精々、面白半分で自然に動く体を体験した、そんな意味不な感じ。
表現するならば、『折角だから、俺はこの棒を振り回してみるぜ!』とでも言うかの様に。
「…有り難う」
微かに頬を染めて笑った彼女に、何故か体が熱くなった。
一瞬、体が痺れたような、だがそれは気持ちの悪いものではない。
そして突然の羞恥心。
恥ずかしいと突然感じ、彼女から目を背ける。
「…ん」
突然、彼女は俺にあのよく使っていた棒を渡してきた。
「あ、あの、これは一体?」
「…恋と、相手」
「え゛!?」
突然のこの言葉。
確かに、相手はしてみたいが、確実にフルボッコにされるのは目に見えている事だった。
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