第肆話 目標

3/7
前へ
/24ページ
次へ
「…恋、もっと早く気付いていれば、助けられた」 「しかし、いくら貴女の武勇が凄まじいものだとしても、村人全員を救うなどとは無理な事。それに、確かに救えた者達も居ます」 いくつもの慰めの言葉、感謝の言葉を述べても、決して彼女は笑みを浮かべなかった。 村内の状態は確かに生き残りが居た。 しかし、子を探す母親、母親を求めて泣く子。 荒れた店々に、家族全員が生き残ったとしても、この村にはほぼ何も残っていない。 それに、賊に襲われるというトラウマを植え付けられ、その恐怖から逃げ出さんと荷物を纏める家族の姿。 彼女には言わないが、この村はほぼ壊滅だった。 「そ、それより、一度家に戻りませんか?貴女の武芸、私は見てみたいものですので」 「…ん」 彼女は、小さく首を頷かせた。 「…ふっ!」 「おお…」 家の裏で、彼女は自身の得物である、戟と思わしき武器を振り回す。 彼女の振るわれる武芸は素早く、力強い。 俺にとって、それは非常に魅力的で、そして憧れるもの。 彼女の舞いは、華という優しさを持ちながらも、虎という力を持っているかのようなもの。 簡単に纏めるのならば、それは『神』のようだ。 あらゆるものを圧倒し、無慈悲な力を持ちながらも優しさを兼ね備えた舞い。 「…ん、おしまい」 余りの素晴らしさに、拍手までして感情を表に出した。 「流石です!惚れ惚れするようなその武勇、美しくもありながら力強い舞い、お見事です!」 よく分からん事を口走っているが、俺はいつから武芸マニアになったんだ? なんだろうか、確かにこの体で槍は振るえるのだが、そこまで武に俺は干渉していない筈。 精々、面白半分で自然に動く体を体験した、そんな意味不な感じ。 表現するならば、『折角だから、俺はこの棒を振り回してみるぜ!』とでも言うかの様に。 「…有り難う」 微かに頬を染めて笑った彼女に、何故か体が熱くなった。 一瞬、体が痺れたような、だがそれは気持ちの悪いものではない。 そして突然の羞恥心。 恥ずかしいと突然感じ、彼女から目を背ける。 「…ん」 突然、彼女は俺にあのよく使っていた棒を渡してきた。 「あ、あの、これは一体?」 「…恋と、相手」 「え゛!?」 突然のこの言葉。 確かに、相手はしてみたいが、確実にフルボッコにされるのは目に見えている事だった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加