第肆話 目標

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真名は自分自身を示すもの、それを許してもいない相手にそれを言われたら大変失礼な事。 いくら真名を様でつけて呼んだと、どれ程に丁寧に言ったとしても、真名を許していない相手に呼ばれても失礼に値する。 その値は、『死』で償わされても文句は言えないという。 「成る程。しかし、そのようなものがあっては生活が不便なような、もし、もし相手の真名を姓名と間違え呼んでしまっても斬られて当然、といったものなのでしょうか」 「けど、真名を許される。すると…相手、とても仲が良い事」 よく言っている事は分からんが、つまり、その代わりに相手に真名を預けたという事は、相手を信頼していますよと言うのと同等。 本当に信じられる相手に真名を預けるという事は、余程良い関係のものと言える。 「成る程、では奉先さん、貴女は先程、真名を私に預けられました。貴女の今説明なされた事は真名の大切さ、ならば、私というまだ会ってあまり時を経っていない者に真名をお預けして宜しいのですか?」 口にした当然の疑問。 奉先さんは、軽々と自身の真名を相手に明かした。 真名は大切なものと分かったからには、軽々と受け取れるものではないと、俺の中では理解した。 そうなると、この疑問は当然出る。 だが、当の奉先さんは首を傾げていた。 「いやだから、真名は大切なものなのですから、私になんか真名を預けて宜しいのですか?」 「なんで…預けちゃ駄目?」 「…はい?」 然も当然のように言われた言葉に驚きが隠せない。 「臧覇…裏切らない。恋、そう信じてる」 「いやですからね、信じてるとかじゃなくて」 「信じてる」 「いや、あの「信じてる…異論は、駄目」…は、はぁ」 取り敢えず真名を受けとれと、今貴女が説明したあの大切さはいったい何処へと飛んでいったのだろう…。 そして異論は駄目と言った辺りで奉先さんの何処から出していつのまに取ったか分からない戟の矛が光って見えたのは気の所為だろうか。 「…恋、練習してる」 「あ、はい。では私はもう少し休んでますので」 そして奉先さんは再び立ち上がり、自身の得物を軽々と、凄まじい武芸を見せてくれた。 それを俺は眺めて、そして今の自分の強さはどれ程のものかと比べる。 考えるまでもなかった、正に天と地の差。 天にいる彼女の武を見て、俺はふと思った。 支えたい。 彼女に仕え、隣で槍を振るってみたい。
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