第肆話 目標

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彼女、奉先さんと共にこの大陸を歩いてみたい。 その感情が俺の心を満たして行き、彼女の振るわれる武芸を見れば見る程に、それは増して行く。 故に俺は、 「奉先さん、貴女に頼みたい事が有る」 今の俺の思いを打ち明けようと決意した。 彼女は戟を振るうのを止め、俺の方へと顔を向けた。 「昨晩、貴女に助けられた。貴女が来てくれなければ、私の命は既にこの世には存在していなかった」 「ん…けど、臧覇も戦った。恋が助けた…それは、違う」 「いえ、あの時点で貴女が来なければ死んでいた。この命は、貴女が居たからこそ今が在るのです。故に」 量膝を地に着き、頭を深く下げて懇願する。 今の願いを聞き入れてくれと、 「この命、貴女の為に使いたい!奉先さん、いや、奉先様。どうか、この私に貴女の持つ武をご教授願いたい。そして、貴女の元に仕えさせていただきたい」 沈黙。 暫く互いにこの沈黙が続き、この思いは本当だと、貴女と共に歩みたいと、拒絶の回答がこないように祈り、頭をただ深々と下げていた。 「…臧覇、本気?」 「はい。貴女の歩む道は常に死と隣り合わせ。しかし、この想いは死など恐れない。どうか、この願いを聞き入れてくださるのならば、私に『真名』を授けてください。お願いします」 真名。 俺はこの大切さを知らない。 どれ程に大切なものだと伝えられても、俺はそれを大切だと感じとる事は難しい。 自分には真名は無い、だからと言って自分で真名を作るなど無理がある。 自分で気軽に作れる程度の存在でしか、その真名の価値は無い。 ならば、授けてくれる者がいれば、それは大切なものと認識出来る。 そう、授けてくれる者がより大切な者であれば。 「…臧覇、これから耀永(ようよう)。真名、耀永」 「よ、『ようよう』?」 「ん。…輝く、永く」 輝く、永(なが)く。 これが、奉先様のくださった俺の真名。 失礼も承知ながらも、響きはあまり良いものではないが、意味はとても良いものだ。 それに、響きが悪くとも、これは奉先様がくれた真名。 「…耀永、一緒に行く」 「あ、有り難うございます!この耀永、貴女が在る限り共に在り!」 「それと…」 奉先様は頭を下げる俺に向けて手を差し出してきた。 それに俺は手を取り、立ち上がる。 「配下、違う。耀永…仲間。だから、恋と呼ぶ」 つまり、配下でなく仲間として見る。 故にこれからは真名で呼べと。
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