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軽く、ほんの軽くしか力を入れていないのだが、思った以上に痛かった。
自分の皮膚をむしってしまうかのような痛み。
そして、自分の声も若干低くなっている気がする。
今まで発していた筈の声でなく、また違う声となっていた。
これは、憑依なのだろうか…。
だが、憑依するといっても何故憑依したのか、普通の学生をして、普通の生活をしていた俺にとって意味不明以外になにもなかった。
「…何なんだよ…」
溜め息混じりのこの台詞。
肩をガックリと下ろし、色々な事で混乱しすぎ、整理出来ない。
覚えているのは住んでいた時代の物、そして自分が学生であった事、それ以外、何も覚えていない。
母は誰か、父は誰か。
そもそも母は居たのか、自分は孤児だったのか、ただ分かるのは自分が学生として生きていた、それだけの事だった。
そもそも、俺はいったい誰なんだろうか。
学生だった、自分の事はそれ以外何も覚えていない。
「っ!?ぐ…!!!」
途端、激しい頭痛に襲われる。
その頭痛は激しさを増していき、声になりきっていないかのような小さな悲鳴を上げた。
膝を崩し、あまりの痛さに頭を抱える。
だが、その痛みが増してくればくる程に何かが見えてくる。
いや、思い出されてくる。
何かを忘れていたかのような、妙過ぎる感覚だ。
そして、脳内に何かの言葉が、思い出されるかのように浮かんだ。
『臧覇(ゾウハ) 字…宣高(センコウ)』
「臧覇…宣…高…」
頭痛が消え、その代わりに浮かんだあの文字を繰り返す。
繰り返せば繰り返す程に、これが自分だと脳が、体が認識をする。
「臧覇…宣高…。俺は…姓が臧、名が覇、字が…宣高。臧宣高」
自分の名前、これが自分の名前だと、ある筈もなく知らない名前が俺だと体が認識する。
俺は、本当に憑依をしたのかと、溜め息を吐きながら呟く。
最早、認めるしかなかった。
いや、最早憑依だの転生だの知らないが、とにかく臧覇として生活をするしかないのだと、そう結論付ける。
立ち上がり、頬を一発叩き、色々な意味で気合いを入れる。
「さて、これから俺の名は臧 宣高。今は今の生活をどうにかするとしよう…」
今はこの生活に慣れるべく、先ずはどうすべきかと、このほぼ寝るためだけの家から出た。
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