第壱話 一時の平穏、崩れる平穏

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臧宣高としての生活は実に安定したものだった。 憑依したのか分からない状況は当時の俺でもあまり理解出来ずにいた。 それは今でも分からないままだ。 家から一歩、外へ出たら何処の時代劇だと突っ込みをいれたくなる光景が広がっていた。 あまり建物の数は多いとは言い難く、小さな村なのだが、それでも商人が売り物を売っていたり、子供がキャッキャと走り回っていたりと、実に良い光景が広がっていた。 そして、あれから幾日か経ったこの日まで、『平穏』という言葉がよく似合うものだった。 それに新たな発見も出来た。 家、というよりかは小屋だが、その裏には何か知らないが物干し竿程度の長さで、それもまた物干し竿的なものの先だけが包まれている謎のものが四本立て掛けてあった。 当時の俺はいったい何を考えていたのか、自分でも気持ち悪い笑みを浮かべながら、その棒を手に取ろうとしていた。 『く…俺の両腕に…ハチャメチャが押し寄せてきてるんだぜ…!』 意味不明だ…。 だが、その行動があったからこそ新たな発見が出来たのもまた事実。 何となく、『最後のファンタジー』の『ドラゴンナイト』に憧れて振るってみたのだが、これがまた不思議な事に、体が自然に動いたのだ。 体が覚えていたのだろうか、槍を持ち、初めての筈が何度も練習していたかのような身のこなしだった。 あれ以降、自分でも練習している。 『見よ!これが本当の槍術だ!』と心の中で叫びながら。 仕事は仕事で酒屋で働いており、安定した生活を確保出来てはいる。 今日も俺は既に見慣れた夜道を徳利を担ぎながら通る。 見上げれば、空には叢雲、そして満月が浮かんでいた。 「ふぅ…今日は絶好の酒日和かな」 酒なんて一度も呑んだ事なかったのだが、一度呑んだら止められない。 酒にも強く、滅多に酔い潰れる事などない程に強かった。 「何だかんだ言って、結構楽しい生活が出来てるよな…」 徳利を口に運び、酒を呑む。 甘くて、しつこくないさっぱりした甘味が口に広がる。 「…こんな場所でも、こういう酒ってあったんだな…。なんか感動だ…」 酒を呑みつつ歩いているうちに、自分の住んでいる、寝るだけのために作られたような家へと到着。 漸く家についたかと、溜め息を吐きながら家へと入っていった。 いつも通りの日々と化したこの日常。 この日常がいつまでも続けば良いと願いながら、酒を呑み布団に潜った。
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