第壱話 一時の平穏、崩れる平穏

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「テメェ!よくも仲間をやってくれたなオイ!」 「どうやら殺されたいようだなぁ!」 周囲にいた賊がわんさかと此方に寄ってきた。 数は十数名。 今の事もあり、撃退出来るのではないかと、そう自分の頭の中で都合の良い妄想をしてしまう。 しかし、現実は違った。 「死ねぇ!」 賊の剣が振り下ろされるのを見て、反射的に棒で剣を防ごう。 そう判断し、剣と棒がぶつかり合う。 貰った…! 剣を弾き、そのまま相手の懐へと入り込み、棒をぶつけようとするのだが、考えが甘かった。 「な、何!?」 剣は一瞬防げたものの直ぐに棒を斬り、そのまま俺へと向かってくる。 「くっ…!」 そのまま下へと転び、回避には成功した。 のだが、現実を思い知らされた。 相手は刃物、それも人を殺す為に作られた剣を持っているのだ。 一方、俺は武器になるものなど持っていない。 今の状況を理解すればする程に後悔と恐怖が湧く。 一時的な安っぽい正義心で何賊相手に武器無しで戦っているのだ、と。 賊が俺を囲み、形成逆転とでも言うかのように、ニヤニヤと笑みを浮かべながら剣を俺に突きつけていた。 「これで終わりだなぁ?」 「……あ……」 その内の賊一人が、剣を振り上げる。 早くもこれが俺の最期となるのかと、目を閉じ死を覚悟した。 …… だが、一向に武器が振り下ろされる事がない。 まさか、賊にこんな慈悲深い奴がいたのだろうか。 目を開けると、俺を殺そうとしていた賊の姿は無く、その代わりに血の付いた戟と思わしき武器を片手に持った、無表情で赤毛の女性であった。 「…貴女は…?」 この出会いが、平和を望んでいた俺の運命を大きく変えた。
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