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「―――これ、なんて曲?」
放課後の、音楽室。
ピアノを弾く私の指が止まり、音楽室の中に響いていた音がぴたりと止んだ。
「ベートーヴェンの『悲愴』」
私は上を見上げる。
そこには、逆さまになった秋(アキ)の顔があった。
「玲奈(レイナ)、ベートーヴェン好きだよな」
「素敵な曲ばっかだもん」
「俺も好きだけど」
秋は言いながら私の腕をつかむ。
そのまま、頭を打たないよう腕で包み込みながら、優しく私を床に押し倒した。
私にまたがり、顔を近づけてくる。
「今日はいいよな?」
「…いいよ」
秋が浮かべる意地の悪い笑みに、ぶっきらぼうに答えて、横に顔をそらす。
秋は少し文句ありげな顔をしながらも、自分のカッターシャツのボタンを上から順に外していった。
「ところで…鍵、かけた?」
私にまたがる秋を見上げて尋ねると、秋は「かけたかけた」と適当な返事をした。
「ちゃんと鍵、かけて。先生とかに見られたら、退学モノだよ?」
「あーはいはい」
秋は立ち上がり、面倒くさそうに扉に向かっていく。
その背中を見て、思わずため息が出た。
―――緋呂(ヒロ)先輩が、浮気した。
緋呂先輩は、ひとつ年上の私の彼氏。
憧れて、告白して。付き合って、キスをして。
何度か関係をもって。あげくのはてに、浮気。
緋呂先輩が浮気するたび、泣きつく先は秋。
いつもこうして慰めてもらっている。
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