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「…俺のこと、知ってんだ?」
彼が一瞬、私を見つめてニヤリと笑った。
彼は窓際へと歩み寄り、背をそっと凭れかけた。
彼を気にしつつも、私はピアノに向き合う。
再び指を柔らかく動かし、ピアノという楽器を奏でてゆく。
曲の中盤、何をしているのだろうかと気になって、横目で彼を盗み見た。
彼と視線が絡まる。
彼は何をするでもなく、私を見ていた。
吸い込まれそうなほど、真っ直ぐで真剣な目で。
思わず指が止まる。
思わず胸が高鳴ったのは、彼の真剣な目のせいだ。
呼吸さえ忘れる、静寂。
それを切り開いたのは、彼だった。
「…高宮、玲奈」
ぽつりと何気なく呟いて、彼は壁から体を起こす。
何で知ってんの、と言いたげな私を見て、彼は目を細めて笑う。
「可愛くて有名。あと、親が音楽家なんだっけ?」
まるで嘲笑うかのような彼を、私は睨み付ける。
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