重なる笑顔

13/13
前へ
/20ページ
次へ
「…違う…」 清水は短く否定の言葉を述べる。 「あ?何か言った?」 「いえ、何も…」 「ふ~ん、あっそ」 実際、清水が何を言ったのか、俺は聞こえていた。 俺は性格が悪いらしいな。と、改めて自己認識し直した。 暫く沈黙が辺りを飲み込む。 しかし、その沈黙を破ったのは清水の方だった。 「ピアノ…よく弾くんですか?とても上手だったので」 「全然。最近全然弾いてないけどな…。そんなに上手かったか?」 最近って…二年が最近に入るのかどうかだけど。 「はい!とっても上手でした!あのっ、私にも少し教えてくれませんか?」 おいおい…。教えろってか?この俺が…? 「無茶言うなよ」 何たって二年分のブランクがある、だから今更上手く教えれる訳がない。 「そうですか…」 清水は顔をさも残念そうにする。 「あぁ…。だから、さまた次の機会に…な?」 あぁ…俺は性格悪いのに何故か優しくしてしまうんだよな。 「え…?あ、ありがとうございます!!」 清水に笑顔が戻った。 不覚にもその笑い顔をみてドキッとしてしまった。 「お、おう。じ、じゃあな!」 あまりにも音楽室に居辛くなったので直ぐに退出した。 居辛くなった原因は、清水だ。あの笑顔といったら、そこらの男共を魅了できるだけの笑顔だ。俺じゃなきゃ、直ぐに男殺スマイルにやられていた。 「あの笑顔…重なるんだよな…」 あいつと…。 「お~い!雪弥!」 廊下を歩いていると、向こうから田村のやろうが小走りでやって来る。 積もる話──つまり、愚痴を田村に溢したいが、今はこれだけ伝えとこう。 「田村、お前近い内にピアノ…教えることになるぞ」 「はっ?何でだよ?」 それは俺が、清水にお前の名前を使って、自分の自己紹介をしたからだ。 とは口が裂けても言えない。 教えろとせがむ田村を無視していく。 「なぁー、何で俺が教えんの?てか誰に?」 「…清水にだよ……」 ボソッ。と呟く。 「ん?何か言ったか?」 どうやら田村には聞き取れなかったようだ。 「あぁ、言ったぞ。確か、ゴリラにピアノのレッスンだった気が…」 「げっ、ピアノ弾けないけど、ゴリラに教える位なら村川先生に教えた方がまだいいな」 田村は俺の冗談を真に受け、誰にでも分かるように、嫌な顔をした。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加