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「…違う…」
清水は短く否定の言葉を述べる。
「あ?何か言った?」
「いえ、何も…」
「ふ~ん、あっそ」
実際、清水が何を言ったのか、俺は聞こえていた。
俺は性格が悪いらしいな。と、改めて自己認識し直した。
暫く沈黙が辺りを飲み込む。
しかし、その沈黙を破ったのは清水の方だった。
「ピアノ…よく弾くんですか?とても上手だったので」
「全然。最近全然弾いてないけどな…。そんなに上手かったか?」
最近って…二年が最近に入るのかどうかだけど。
「はい!とっても上手でした!あのっ、私にも少し教えてくれませんか?」
おいおい…。教えろってか?この俺が…?
「無茶言うなよ」
何たって二年分のブランクがある、だから今更上手く教えれる訳がない。
「そうですか…」
清水は顔をさも残念そうにする。
「あぁ…。だから、さまた次の機会に…な?」
あぁ…俺は性格悪いのに何故か優しくしてしまうんだよな。
「え…?あ、ありがとうございます!!」
清水に笑顔が戻った。
不覚にもその笑い顔をみてドキッとしてしまった。
「お、おう。じ、じゃあな!」
あまりにも音楽室に居辛くなったので直ぐに退出した。
居辛くなった原因は、清水だ。あの笑顔といったら、そこらの男共を魅了できるだけの笑顔だ。俺じゃなきゃ、直ぐに男殺スマイルにやられていた。
「あの笑顔…重なるんだよな…」
あいつと…。
「お~い!雪弥!」
廊下を歩いていると、向こうから田村のやろうが小走りでやって来る。
積もる話──つまり、愚痴を田村に溢したいが、今はこれだけ伝えとこう。
「田村、お前近い内にピアノ…教えることになるぞ」
「はっ?何でだよ?」
それは俺が、清水にお前の名前を使って、自分の自己紹介をしたからだ。
とは口が裂けても言えない。
教えろとせがむ田村を無視していく。
「なぁー、何で俺が教えんの?てか誰に?」
「…清水にだよ……」
ボソッ。と呟く。
「ん?何か言ったか?」
どうやら田村には聞き取れなかったようだ。
「あぁ、言ったぞ。確か、ゴリラにピアノのレッスンだった気が…」
「げっ、ピアノ弾けないけど、ゴリラに教える位なら村川先生に教えた方がまだいいな」
田村は俺の冗談を真に受け、誰にでも分かるように、嫌な顔をした。
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