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一体何を聞きたいと?
ピアノの事か?
「俺には男二人きりでする趣味はありませんよ?」
「ばか、ピアノ演奏の事だよ。にしてもプロ顔負けだったなぁ、お前の演奏」
やっぱりピアノの事か…。答えたくないな。
「はぁ…。まぁ、ね」
ゴリラが言った感想は、あくまで素人目線からだ。もっとハイレベルの奴等からしたら、俺の演奏は下手と言われるレベルだ。
「何だか歯切れの悪い返答だな」
「まさか、ゴリラ先生にはそう聞こえたんですか~?」
何時からだろうか、俺がゴリラ、ゴリラとこの教師のあだ名を決めたのは。
「いいか?俺はゴリラじゃなくて、嶋津って言う名前があるんだ。だからゴリラは言うな」
ゴリラこと、嶋津は自分の名字を言いながら、訂正に入った。
「あぁ、悪い悪い。んで?結局話したいことは何ですか?嶋津せんせっ」
最後の方で茶目っ気を入れてみたが、嶋津は気にしてない素振りで話を進めた。
「お前、コンクールに出てみないか?」
嶋津の言葉を聞き少し唖然とした。だが直ぐに可笑しくて笑いが込み上げてきた。
「あっははは!先生バカです?俺には実力がない、もう辞めた身、もう一回始めるつもりも、コンクールに出るつもりもないです」
はぁ~…言い切ったぜ。
何がどうであれ、絶対にコンクールには出ないし、ピアノをもう一回始めるつもりもない。
それは揺るがない決心なんだ。
「いいや。今からでも遅くない、今から練習でもして、コンクールにエントリーしてみろ」
「いや、だから~出るつもりは無いですって。同じことを言わないでくださいよ」
だんだんと、自分の中に苛立ちがつのる。
拒否しても、嶋津はなかなか引かない。
「コンクールに出れば進学、就職に有利になるしいい成績を残せて良いじゃないか」
あぁ、もう抑えが効かないかも。
「グダグダうっせぇんだよ!俺はやんねぇって言ってんだろ?それを何回も何回もくどいっつうの!!ブッ飛ばすぞ!!」
そう言い残した後、俺はキレた勢いで指導室を出ていった。
キレていても、帰ることは忘れずに教室へ行き、鞄を持ち玄関に向かった。
玄関に着いてある人物を目にする。それは田村だった。
既に帰ったものかと思っていた俺は、呆けていた。
「よっ、雪弥!って、なに突っ立ってんだよ。早く帰ろうぜ」
突っ立ってんのはお前のせいだ。とツッコミたかったがコイツが待っていた事がツッコミより勝った。
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