なみだ

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彼氏のいなかった私が、彼に対して、 友人以上の気持ちを持っていなかったといえば嘘になる。 だが、そのときは、彼にそれを伝える気もなかったし、 何よりも、伝える勇気がなかった。 あれから10年が過ぎる。 私も、この冬、30になる。 彼と結婚したいと思ったこともある。 彼と結婚するために、 このまま、相手を見つけないでいようかと思ったこともある。 だけど、私は待てなかった。 彼が約束を10年も覚えているとは思えなかった。 じっと待って10年後、 「約束覚えてる?」って聞いたとき 「何?」と聞き返されるのが怖かった。 とぼけられる方がもっと怖い。 うまくいっている友人関係をこのまま保ちたかったから 彼との一線をこえることができなかった。 あの約束が励みになったのか、私は順調に過ごしていった。 そう、本当に順調に。 好きな人を見つけ、恋をして、そして、結婚までした。 そう、結婚してしまったのだ。 だけど、同期会の席で、まだ結婚していない彼と会うたびに、 彼にあの約束のことを聞き出したくなる。 結婚したのに、不純だろうか? でも、どうしても、聞き出せない。 「彼女は?」と尋ねると「いっぱいいるよ」と笑う彼。 その笑う目に見つめられると、その目に吸い寄せられてしまうことがある。 その目の奥は、もしかしたら笑っていないのかもしれない。 今年の同期会。いつもよりおしゃれしてみた。 相変わらず彼の態度はかわらない。 彼は、帰り際、私の横にやってきて、 同期の女の子1人を指差しこう言った。 「俺、今度、あいつと結婚することにした」 耳を疑った。 「あいつとは、約束してなかったけどな」 私は、さらに驚いて、そして、足を止めてしまった。 彼は、私の様子などおかまいなしに、彼女の元へと走って行った。 そして、全員に、披露したのだ。 …彼は約束を覚えていたのだ。 30まで待てばよかった。 彼は覚えていたのに。 後悔だけがあとからあとから押し寄せてくる。 私は明日、独身に戻る。 次第にかすんでいく視界の向こうに、いつもとかわらない彼の笑顔が見えた。
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