消えた煙

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消えた煙

「キスから始まった恋なら、最後はキスで終わりたい。」 静かに打ち寄せる、夜の星を運ぶ、午後十一時の波音。 こんな綺麗な海に、背を向ける君と、そんな君を見つめれない僕。 時間が経つのを、遅く感じていたのだが、人指し指と中指に挟まれた、まだ長い煙草に、それを気付かされる… …丸太で作られたフェンスに、手をつき、子供のように、体ごと下を覗き込むと、十メートルはあるだろうか? 砂浜に捨てられた空き缶が、コロコロ。と音をたてながら、テトラポットにぶつかるのを、目で追い掛けた。 時折り吹く、七月の風のせいか、タバコの煙が目に入る。 ただ、高所恐怖症だということを忘れていた僕は、どこまでも続く、深い蒼(あお)の海を、見つめ直していた。
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