32人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「そうですね、分かりました」
僕は三穴のコンセントを外すと、それを彼女に手渡した。
「これでもう盗聴の心配はありません。あとは部屋の鍵をチェックして、セキュリティ対策を万全にすれば、簡単に侵入されることはないでしょう」
「そうですか。…良かった。私ひとりじゃ、どうしていいのか全然分からなくて…」
ずっと不安げだった彼女の顔に、少しだけ安堵の色が戻った。
その様子を見ていた青砥も笑みを浮かべ、親友の肩をポンと叩いた。
「良かったね、紗英。榎本さんに任せておけば、絶対に大丈夫だから。あっ、そういえば榎本さん」
「はい、何ですか?」
「紗英にちゃんと自己紹介しました?」
青砥に言われ、我に返る。
防犯の事となると、僕はどうも周りが見えなくなってしまうらしい。
持参していた会社のジャンパーから名刺を取り出すと、青砥の親友である彼女に渡した。
「自己紹介が遅れてすみません。東京総合セキュリティの榎本径です」
「あ…、一ノ瀬紗英です。よろしくお願いします」
彼女が深々と頭を下げたので、僕も同じように深々と頭を下げた。
それを見ていた青砥が、口許を抑えて笑っていたのを、僕は見逃さなかった。
最初のコメントを投稿しよう!