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「今日は青砥さんのおかげで、大口の仕事の契約が取れました」
車を運転しながら、僕はミラー越しに、大活躍をしてくれた彼女に話し掛けた。
「確かに芹沢さんじゃあ、ダメな訳が分かりましたよー。弁護士たるもの、嘘なんかつけるかー!って、取り合ってすらくれませんよ。あの人は」
腕組みをして、青砥はウンウンと頷いた。
「…だけど、私もこんな嘘ついて良かったんですかね…。あ…、念のため言っておきますけど、普通、弁護士は依頼人の案件を他人に漏らしたりしませんから」
「分かってます。今回はどうしても相手に知ってもらわないと、進まない計画でしたからね。それに…」
「それに?何です?」
「…僕は人を傷付けるための嘘は肯定しませんが、人を守るための嘘なら、時にはついてもいいと思ってます」
青砥にとっては意外な言葉だったのか、驚いた顔で僕を見た。
しかし、すぐにいつもの穏やかな表情に戻り、深く息を吐き、
「そうですよねー…。よく考えたら、弁護士だって、嘘と真実の隣り合わせで仕事をしてるようなもんですから。少なくとも、これで紗英の身を守れるわけですしね」
「菅原さんも、すぐにでも交換して欲しいと言ってたので、明日には一ノ瀬さんの部屋も、完璧な防犯対策が取れたものになりますよ」
あれから菅原は、ベランダ通路部分にソーラーライトの取り付けと、集合ポストのあるエントランスに人感センサー、各部屋のインターホンをセキュリフェースインターホンに替えてくれと頼んできた。
「交換するインターホンは、マスクや帽子で顔を隠していたり、死角に入って顔が確認出来ないと、通常と異なるチャイム音を鳴らして知らせるものなので、防犯機能はかなり高いですよ」
「それなら、しっかり画面で相手の顔を確認してから、ドアを開けれますもんね」
実は、通常ドアに付いているドアスコープは、ストーカーにとっては好都合なものだったりする。
玄関先で訪問者を確認しようとドアスコープを覗いた時に、そこから覗き見る相手と目が合って怖い思いをしたという人が、結構いるのだ。
それを避けるためにも、僕は菅原さんに、強くセキュリフェースインターホンを勧めたのだ。
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