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「僕が出来ることは部屋の防犯だけなので、後は青砥さんに任せます」
「分かってます。榎本さんが防犯の知識で守るなら、私は弁護士として法で紗英を守りますから」
青砥は力強く言った。
「ストーカーっていうと警察のイメージが強いですけど、金銭的被害や精神的被害を受けた場合は、民事訴訟で損害賠償請求が出来るんです。もし、エスカレートするようならば、私は法的手段に出る覚悟です」
元来、青砥は正義感が強く、困っている人を放っておけない性格だ。
全くの他人に対しても、全力で力を貸そうと努力をする。
その相手が自分の友達ともなれば、まして黙って見ている事なんて出来やしないだろう。
しばらく車を走らせれば、芹沢総合法律事務所の看板が見えてきて、僕は路肩に車を停めた。
「今日は本当にありがとうございました」
「いえ、僕のほうこそありがとうございました」
お互いに今日の健闘を称えあって礼を言う。
車を降りた青砥は、にっこり笑顔で手を振った。
僕が振り返してよいものか戸惑っていると、彼女は周りをキョロキョロと伺い、口に手を当ててこう言った。
「今日の榎本さん、最高でしたよ」
だから僕も、僕なりの言葉を彼女に返した。
「青砥さんも、アカデミー賞ものの演技でしたよ」
青砥は嬉しそうに笑うと、クルッと背中を向けて、まだ明かりの灯る事務所の中へと入っていった。
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