Beginning:榎本side

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しかし、残念ながらそこまでの器用さは持ち合わせていない。 出来る事といったら、濡れた身体を拭くタオルを渡すくらいだ。 「良かったら使って下さい」 「あー、ありがとうございます」 顔を上げた青砥は微かに笑みを零し、タオルで髪を拭き始めた。 「で…、要件は何ですか?」 手持ち無沙汰に机の上にあった書類を揃えながら声を掛ける。 彼女はキョトンとした顔でこちらを見ると、 「用事がなくちゃ来ちゃいけないんですか?」 「………え?」 「だーかーら、用事がなくちゃ来ちゃいけないんですか?雨宿りですよ、雨宿り」 悪びれた素振りを見せることなく、折れたヒールを眺めながら青砥は言った。 思わず眉間に皺が寄る。 軽く咳払いをしてみるが、全く気にする気配もない。 「あの、そろそろ仕事がしたいんですけど…」
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