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「でも、良かったです。榎本さんと純子のお陰で、こうしてアパートの防犯も見直された訳だし」
「それが仕事ですから、また困ったことがあったら、いつでも言って下さい」
「はい」
そんな話しをしていれば、あっという間にアパートに隣接する駐車場に着いた。
車から降りると、私はケーキの入った紙袋を、榎本さんはダンボールを抱えてアパートの入り口へ向かった。
ふと、榎本の足が止まる。
そして、前方をジーッと見つめたまま動こうとはしない。
「…榎本さん?」
不思議に思って声を掛けると、「ここで待っていて下さい」と言って、ひとりで入り口へと歩いていく。
その背中を追って視線を向けた先には、何やらアパートの様子を窺っている男の姿があった。
モデルのようにスマートで、彫刻のように綺麗で端正な顔立ちをしたその男は、時折あくびをしながらも、入り口から視線を外すことはない。
「‥失礼ですが、ここの住人の方ですか?」
榎本が話し掛けると、男は少し驚いて手を振った。
「いやぁ~、いいアパートだなーって。俺、いま新しい引っ越し先を探してて、たまたま通り掛かったら、運命の出会いってヤツ?ここを見つけちゃって」
「そうですか。でしたら、大家さんを紹介しますよ。ちょっとした知り合いなんで」
男はチラリと榎本のユニフォームの胸を見た。
「東京総合セキュリティ‥って、ことは警備会社の人なんだ?」
「そうなりますね」
「じゃあ‥ある意味、俺と似た者同士かもね。大家さんによろしく言っといてよ」
男は意味深な笑みを浮べ、榎本の肩をポンと叩くとその場を離れた。
ズボンのポケットに手を入れて、こちらに向かって歩いてきた男は、擦れ違いざまにチラッと私を見た。
「‥あんた、気を付けたほうがいいよ」
「え…」
一瞬の出来事で私は意味も分からず、通り過ぎていった男の姿を追うように振り返った。
しかし、男は角を曲がったあとで、そこにはもう誰も居なかった。
『気を付けたほうがいい』って、どういう意味?
誰に気を付けるの?
何に気を付けるの?
立ち尽くす私の傍に、ダンボールを抱えた榎本さんが戻ってきた。
「大丈夫ですか…?」
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