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「はい、大丈夫です。でも…、さっきの男の人が『気を付けたほうがいい』って…」
榎本は何かを考えるような素振りをみせて、しばらく黙り込んだ。
「とにかく、アパートに入りましょう。彼の事は僕に任せて下さい」
その言葉に私は頷くと、榎本さんとアパートのエントランスへ向かった。
集合ポストで自分の部屋番号を確認し、いつもと変わりなく手紙を取り出す。
よく利用している店のDMと、少し厚みのある封書が一通入っていた。
名前に見覚えはなかったが、送り主名がきちんと書いてあったので、安心して手に取ることが出来た。
「僕はここでセンサーの取り付けをしなくてはいけないので、一ノ瀬さんは先に戻ってて下さい。今日、許可をもらっている部屋の仕事が終わったら、そちらに伺います」
「分かりました。それじゃあ、私、先に部屋に戻ってますね」
早速、仕事に取り掛かる榎本に、ペコリと頭を下げてからエレベーターに乗った。
何故か、彼が同じ建物に居るというだけで安心感が生まれ、ストーカー被害に遭う前の、平和だった日常に戻れた気がした。
エレベーターを降りて、ドアの鍵を開けようとしていた、ちょうどその時、携帯の着信音が鳴った。
急いで鍵を開けて部屋に入れば、紙袋をテーブルの上に置き、電話に出た。
「もしもし?あ…、純子。うん、さっき榎本さんが来て、今はエントランスに居るよ」
そう伝えると、純子はすごく安心したようだった。
『ほら、榎本さんって、あんなじゃない?必要最低限は喋らないっていうか…。でも、防犯に関しての腕は本物だから、安心していいからね』
「分かってる。純子が紹介してくれた人だもん、信じてます」
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