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「芹沢さん…」
「やっちまったもんは仕方ない。それに、こっちに不利益が生じた訳でもないしな。君の友達だって、安全になるわけだし。と、なると‥得したのは、榎本だけかぁー‥」
少しばかり悔しそうに、芹沢は腕を組んで渋い顔をした。
「それで、その友達をストーカーしてる相手は分かったのか?」
「実は…まだなんです。彼女自身も心当たりがないみたいで」
「例えば、過去に付き合ってた男とか、頻繁に勤め先に来る客とか。ストーカーってのは、何かしら接点があって、はじめて遭うもんなんじゃないのか?」
「それも変わってきて、今は色んなパターンがあるみたいですよ。ブログで知ったとか、たまたま親切にされたとか」
「本人は全く知らないが、相手が一方的に好意を寄せている…、か。とにかく、ここは警察に任せるのが一番だと思うけどな。弁護士が力になれるのは、そこから先の事だ」
芹沢さんの意見は全くもって、その通りである。
相手が分からなきゃ、損害賠償請求だって出来ないのだから。
「私、もう一度、彼女と話してみます」
頷く芹沢を見て、ポケットから携帯を取りだそうとした瞬間。
着信音が部屋に鳴り響いた。
私は慌ててポケットから携帯を取り出すと、そこには『榎本』の名前が表示されていた。
「あ…、もしもし!?榎本さん?」
「何?榎本っ!?」
私の声に、芹沢さんが素早く反応する。
そして、話しを聞こうと身を乗り出し、挙げ句の果てには私の隣に来て、必死に耳を寄せてくる。
「今日はアパートの鍵を交換しに行ってるハズじゃあ…」
『ええ、いまアパートにいますよ。それより、青砥さんに調べて欲しい事があって電話したんです』
「私に…ですか?」
『紗英さんの利用した『双葉運送』で、当日、彼女の引っ越し作業を行った従業員を調べて欲しいんです。あとで、そちらに日時の書かれた請求書を持っていくので』
「分かりました。任せて下さい」
榎本と話していれば、とうとう我慢が出来なくなった芹沢が強引に携帯を奪い取った。
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