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そう言いかけた言葉を遮るように携帯が鳴った。
「はい、もしもし青砥です」
またか…。
携帯までもが、僕の邪魔をするのか。
「あー、久しぶりー!うん、分かる。最後に会ったのは、えーと…」
どうやら仕事の話ではなさそうだ。
声を弾ませ、時折笑い声を上げて会話する青砥をチラリと見れば、コーヒーを淹れに席を外す。
「そうそう、今ね、仕事で警備会社に来てるの。榎本さんって、ちょっと変わった人がいるの」
イヤホンをはめるべきか?
いや、自分の話しをされているんだから聞いたってバチは当たらないだろう。
コーヒーカップを手にして戻れば、青砥は気付いて小さく頭を下げた。
彼女の前にそれを置くと、クルッと背中を向けて自分の机へと戻る。
そしてすぐさまイヤホンをした。
自分の話しは気になったが、どうも女性同士の会話にはついていけない。
最近話題のお店だとか、流行の洋服だとか。
特に恋愛話は理解不能な点が多すぎる。
錠前の事も青砥の事も、一旦忘れて仕事をしよう。
綺麗に整理整頓されたファイルの中から必要な書類だけ取り出して、愛用のノートパソコンを開く。
やっと落ち着けたと思った瞬間―。
「えぇっ!?ちょっ…ちょっと待って!それ、榎本さんに相談してみるからっ」
勢いよく椅子から立ち上がった青砥は、手にしていたヒールをテーブルに放り投げ、片足だけ履いていたパンプスを脱ぎ捨てた。
そして、駆け寄って来たかと思えば、パソコンの電源を入れようとしていた僕の手をガッチリと掴んで、こう言った。
「榎本さん、完全な密室って作れますか?」
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