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僕が何故、セキュリティ会社で働くようになったのか、経緯を話せば長い。
例え、その長い話しを聞いてくれる相手が現れたとしても、僕が全てを語ることはないだろう。
そう、この時の僕は思っていた―。
「ごちそうさまでした。そろそろ、残りの仕事に戻ります」
コーヒーを飲み干して立ち上がると、再び玄関へと戻った。
シリンダーの交換は終わったが、玄関の強度アップするため、補助錠の取り付けにかかった。
今の物件は、防犯性を高めるために1ドア2ロックが常識になってきている。
ひとつのドアに錠を2つ付けておけば、万が一、ピッキングや鍵穴壊しに遭ったとしても、犯人は通常の2倍の時間を要さなければ開ける事が出来ない。
そのために、途中で断念して逃げる犯人も多いのだ。
玄関が終われば、ベランダに通じる窓にも補助錠と、そしてガラス用警報機を取り付けた。
全ての取り付けが完了すると、僕は彼女を呼んだ。
そして、彼女の手のひらに真新しい鍵をそっと置く。
「これが、一ノ瀬さんの部屋の新しい鍵です。この鍵はリバーシブルキーといって、全てのタンブラーが同時に揃わないと回転しません。ピッキングも非常に困難です。それから…シリンダー内も複数の高硬度部品を使用しているため、ドリル攻撃にも高い抵抗力があります。耐ピッキング性能もCP認定基準である5分の2倍、10分以上かかります」
いつもの悪い癖だ。
そうは分かっていても、僕には自分を止めることが出来ない。
「次は、玄関の補助錠について説明しておきます」
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