visitor:一ノ瀬side

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私の勤めるフラワーショップ、『Mew Flowers(ミューフラワーズ)』は、猫好きのオーナーが、飼い猫の鳴き声をとって付けた名だ。 『お客様に、出来るだけたくさんの花に触れて欲しい』というオーナー意向から、他では取り扱いが少ない品種も普段から置いてあった。 それもあってか、ホテルや結婚式場からの注文も多く、お店で働く店員は皆、フラワーデザイナーの資格を持っていた。 もちろん、私も例外ではない。 店頭に鉢植えを並べ、お店の看板を出して開店準備を終えれば、前日に余った生花で小さなブーケを作っていく。 開店して間もなく、開いた店のドアをひとりの男性が軽くノックした。 「いらっしゃいませ…」 顔を上げた私と視線が合ったその相手は、驚く私と対照的に、爽やかな笑顔で『どうも』と挨拶をした。 「花束をプレゼントしたいんだけど、お願い出来る?」 「あなた…確か、この前の…」 忘れもしない、この顔。 アパートの前で私に、『あんた、気を付けたほうがいいよ』と忠告してきた男だ。 「…なんで、ここが分かったんですか?」 「そりゃあ、こうみえて俺、探偵だからね。調べもんに関してはプロだから」 彼は自分が探偵だと隠す事もなく告げると、私にポケットティッシュを渡してきた。 「北品川ラッキー探偵社…」 「名刺はないけど、俺の職場はココ。名前は時多駿太郎。ちょっとは安心してくれた?」 ニッコリと微笑む、時多駿太郎と名乗る探偵。 「…その探偵が何で、あの時、アパートの前にいたんですか?」 「たまたま請け負った仕事が、あのアパートに関係してただけ。それに、俺が君の事を調べてたら、自分から探偵なんて言わないし」 確かにそうだけど、だったら何故あの時、私に忠告してきたのかが気になった。 「あ、花束なんだけどさ、白の花を際立たせた感じにして貰っていい?」 花のことを言われて我に返る。 そうだ!仕事中だった! 慌てる私を横目で見やり、彼は店の奥にあるガラスケースの前に行くと、腕を組んで花を選び始めた。 「白い花って、けっこう種類あるんだなー‥。凛としたイメージって言ったら、コレかな」
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