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百合の花を選ぶと、時多は『あとは全部任せる』と言い、店内を見て回わった。
同じ白の花を合わせても、百合が主役になるようにと、配色を考えながら花束を仕上げていく。
「時多さんが選んだ百合の名前、ホワイトヘブンって言うんですよ。より際立つように淡い紫のカンパニュラ、それにグリーンをちょっと加えてみたんですけど…、どうですか?」
「おっ、さすが!イメージ通りだし、バッチリ。これでリボン付けて貰っていい?」
「はい、もちろん」
嬉しそうに笑う彼の表情に、私も自然と笑みが零れた。
最後の仕上げにリボンを結んで、出来上がった花束を彼に手渡す。
「ありがと、助かったよ。素人の俺じゃあ、花のことなんて全然分からないしね」
「お役に立てて良かったです。相手の方に喜んで貰えるといいですね」
会計を済ませた時多を見送るため、外に出たところで、彼は急に足を止めてこちらに向き直り、笑顔で手を差し出してきた。
突然のことに戸惑いながらも、私はそっと彼の手を握った。
その途端、強い力で握り返されて、慌てて手を離そうとしたが、強引に身体ごと引っ張られた。
「ちょっ…、離して下さい!」
「…静かにして。花束を作ってくれたお礼に、とっておきの情報を教えてやるよ」
「えっ…?」
私の肩口に顔を寄せると、彼は耳元で静かに告げた。
「…俺の依頼人は多分、あんたのストーカーだ」
「………」
予想もしていなかった出来事に、私は思わず言葉を失った。
「身辺調査を頼まれてる。…でも、こないだの様子じゃ、困ってるのはあんたのほうだろ?」
ふと、こちらに来る人影を感じて、時多はスッと離れた。
「探偵やってると、勘が冴えてくんのかな。以外と当たるんだよね」
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