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時々、この人はとんでもない事を言い出す。
何も考えていないのか、はたまた考え過ぎて複雑になるのか。
それは僕にも分からない。
「…青砥さん、何か事件を起こす気ですか?」
そう訊ねると、彼女はビックリした顔をしてブンブンと首を振った。
「まさか!わたしが事件を起こす訳ないじゃないですか!」
「僕はてっきり芹沢さんに仕返しをするものだと…」
「しませんよっ!そりゃあ、今日の件は腹が立ちましたけど…そこまでは…」
何とも言えない苦笑いを浮かべ、ふと我に返ったのか、掴んだままの僕の手を慌てて離した。
「…出来ますよ。密室を作りたいのなら、自分で完璧に施錠をするだけです。勿論、合い鍵を他人に渡す事も禁止です」
青砥の質問に答え、気を取り直して電源を入れようとすれば、
「あーっ、違うんです!違うんです!その密室が安全になるように、榎本さんにセキュリティを完璧にして欲しいんです」
「…どういうことですか?」
話しの筋道がみえてこなくて困惑していれば、青砥はキョロキョロと周りを気にしながら、小声で言った。
「実は…ストーカーに狙われてるんです」
その言葉に思わず彼女を凝視した。
「青砥さんが、ですか?」
「…え?違う違う!わたしじゃあないですよ。友達がです」
「そうだと思いました」
「ちょっと、それ、どういう意味ですかっ!?」
「そのまんまの意味です」
膨れっ面をした彼女が、怖い顔で僕を睨み付けてくる。
楽しみを奪われた上に、安息の場を雨宿りに使われ、挙げ句の果てに仕事の邪魔をされているんだから、これくらいの仕返しをしたって罰はあたらないだろう。
それに、この手の問題はセキュリティを強化した所で、簡単に片付けられるものではない。
「いくら防犯に気を遣っても問題は解決しないと思います。そもそもストーカーというのは、特定の個人に異常なほどの関心を持ち、その人の意志に反してまで跡を追い続ける者です。自宅から一歩外に出れば、セキュリティだけでは守りきれません」
「分かってます。わたし、これでも一応弁護士なんで、過去に幾つかの案件も受けてます」
「だったら、尚更複雑な問題だと分かっているんじゃないですか?」
「だから榎本さんに頼んでるんです。お願いします!協力して下さい!」
青砥は深々と頭を下げた。
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