doubt:青砥side

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先に到着していた榎本が、エントランスホールで、管理人の菅原にパンフレットを見せながら防犯システムについて説明していた。 専門用語を並べる榎本の説明に、ほとほと困り果てた様子の菅原は、小太りな背中を丸めて、大きな溜め息を洩らしているようだった。 助け舟を出すべく、私は二人の間に割って入った。 『助かった』とばかりに、肩に掛けたタオルで額の汗を拭って、菅原はいそいそと里中の背後に回った。 「榎本さん。説明の続きは里中さんにお願いします」 そう伝えると、榎本は、人差し指でメガネの位置を直すと、里中に向き合った。 そして、アパートに設定した防犯システムの説明を続ける。 「いやぁー、青砥先生、助かったよ。年寄りは、どうも横文字が苦手でね。インター…セキトリがなんとか、わしにはチンプンカンプンで…」 「いえ、心中お察しします。私も、彼の説明は、半分以上理解出来てませんから」 東京総合セキュリティとプリントされたジャンパーの背中を見つめながら、私は大きな溜め息を吐いた。 アパートの一室に設けられた事務室に移動してからも、榎本の説明は一時間ほど続いただろうか。 「……説明は以上です。何か分からない事はありますか?」 「いえいえ。もう、十分です。分かりやすい説明、ありがとうございました」 里中が丁寧に頭を下げると、『そうですか』と言って、榎本は黙り込んだ。 しばらく、沈黙の時間が流れた。 自分の仕事は全部終わったからって、あとの事は私ひとりに丸投げするつもり? どうしてこうも、オンとオフの差が激しいのよ! と、ここで榎本を責めてもしょうがない。 クラクラする頭を抱えながら、私は咳払いをひとつすると話しを続けた。 「先ほど榎本さんが話した通り、アパートの防犯システム設置は全て完了しましたし、これで窃盗団に入られる心配もありませんね」 テーブルの上に置かれた書類を細かにチェックして、私はニッコリと微笑みながら、それを菅原と里中に手渡す。 すると、今まで黙っていた榎本が、おもむろに束になった鍵を鞄から取り出した。
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