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「榎本さん、それは何ですか?」
「各部屋の鍵です。全ての部屋のシリンダーを替えたので、新しい管理用の鍵をまとめておきました」
よく見れば丁寧に、それぞれの鍵にプラスチック製のタグを付け、そこに部屋番号の印刷されたシールが貼ってあった。
「いやぁ~、有り難い。助かりますよ」
菅原は鍵の束を受け取って、榎本に頭を下げた。
「それでは、また何か不都合な事がありましたら、いつでも連絡下さい」
榎本はそう両者に言うと頭を下げて、クルッと向きを変えればスタスタと会社のワゴンへと向かった。
置いていかれぬように、私は慌てて榎本さんの後を追う。
後ろを振り返って、菅原と里中に何度か頭を下げると、ワゴンの助手席のドアを開ける。
「ちょっ…、榎本さん!置いていかないで下さいよぉ!」
「以前お願いしておいた引っ越し業者の事ですが、何か分かりましたか?」
慌てる青砥とは対照的に、榎本は淡々とした口調で聞いてきた。
何なのよ、もう。
さっきまで延々とセキュリティシステムの説明をしていたのに、切り替えが早すぎる。
ワゴンの助手席に乗ってシートベルトをすると、青砥はバッグの中から分厚い手帳を取り出した。
そして、ひとつ咳払いをすると話し始める。
「『双葉運送』ですが、至って普通の引っ越し業者でした。紗英が引っ越しを依頼したのは立川支店になってたので、そっちに芹沢さんと行ってみたんです。従業員は社員とパート、アルバイトで構成されてるんですけど、アルバイトに関しては派遣会社から来て貰ってるそうです」
「派遣会社、ですか?」
車のエンジンをかけながら、榎本は訊ねた。
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