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頼りにされる事は嫌いじゃない。
寧ろ、自分が必要とされる事は嬉しかったし、好きだった。
表面上は『仕方ないなぁ』という素振りを見せつつも、
「…分かりました。では、青砥さんから話を通して下さい」
「ありがとうございますっ!」
そう言って、すぐに電話を掛け直す彼女の後ろ姿を見つめながら、僕はとんでもない事に巻き込まれたんじゃないかと溜め息を吐いた。
暫くして、話しを終えた青砥が声を弾ませて『榎本さん』と呼んだ。
先程の深刻そうな表情は嘘だったのか?というような笑顔を浮かべて。
「友達に話したら、すっごく助かるって感謝されちゃいました」
「まだ何もしてないのに、ですか?」
「そりゃあそうですけど、話しがちょっとでも進展すれば嬉しいじゃないですか。それに、榎本さんに任せれば間違いないし」
「それはあくまでも青砥さんの気持ちであって、青砥さんの友達の気持ちじゃないですし…」
「だーかーら!とにかく明後日に私と一緒に来ればいいんです」
強引に青砥に押し切られた形で、僕はただ頷くしかなかった。
ふと、窓のほうに視線を向ければ、外が明るくなっているのが分かった。
どうやら雨が上がったらしい。
少し空気を入れ換えようと窓辺に向かう僕を追い越して、彼女が先に窓を開けた。
「わぁー…、いい天気になってる。さっきの雨が嘘みたい」
「そうですね」
「あっ!榎本さんっ、見て下さい!虹ですよっ!」
青砥が興奮気味に肩を叩く。
一緒になって窓から顔を覗かせてみれば、ビルの隙間に綺麗な虹が架かっているのが見えた。
それが、太陽の光が水滴で屈折して反射してるとか、光が分解されて複数色の帯に見えるとか、小難しい事はどうでもよかった。
ただ、ただ、
久々に見る虹は、とても綺麗だった。
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