Beginning:青砥side

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応急処置ではあるが、榎本に直してもらったパンプスを履いて、急ぎ足で事務所へ戻る。 とっくに過ぎている芹沢との約束の時間。 怒られる覚悟は出来ていたが、いざとなると後込みしてなかなか部屋に入れない。 どうしようかとドアの前をウロウロしていると、誰かにトントンと肩を叩かれた。 人が真剣に悩んでるのに鬱陶しいなぁとばかりに、眉間に皺を寄せて振り返ると、そこには仏頂面で腕を組んで立つ芹沢の姿があった。 ビクッとして思わず後退ったら、ドアノブに背中をぶつけてしまった。 地味に痛がる私をよそに、彼は呆れた口調で話し出す。 「実はクライアントから電話があってさ。君が帰ったのは2時間も前だって云うから、首を長ーくして待ってたんだけどねぇ」 ―芹沢豪。 私の上司で、ここ『芹沢総合法律事務所』の代表を務めている。 主に企業相手の仕事を受け持っているせいか、無駄に顔が広い。 そして、一応だがエリート弁護士と呼ばれている。 あくまでも一応である。 「話したくないって言われたんだって?それでノコノコ帰って来ちゃったら、話しが進まないでしょうが~」 「だったら、芹沢さんが自分で行って下さいよ!元々は芹沢さんの受けた案件であって、私は私で片付けなきゃいけない仕事が山のようにあるんです!」 「山のように?俺は見たことないけどなぁ。ほら、あれだろ。お前の事だから、榎本の所に寄って雨宿りついでに愚痴ってたクチだろ?」 ぐうの音も出ない私を見て、『ほらみろ!』とばかりに勝ち誇った顔をして、サッサと自分の部屋へと入っていく。 少し離れてその後ろをついていくと、鞄の中から預かっていた書類を出して、彼のデスクに叩き付けるように置いた。 「とにかく、自分の仕事は自分でやって下さい!」
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