Beginning:青砥side

3/3

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「ちょっ…おいっ!青…」 呼び止める芹沢の言葉を、強引に遮るようにドアを閉めた。 「はぁー…疲れたー」 机に突っ伏している私の傍らに、そっとコーヒーカップが置かれた。 淹れ立てのコーヒーの芳ばしい香りに鼻を擽られて思わず顔を上げれば、そこには柔らかな笑みを浮かべた水城里奈の姿があった。 私も笑顔を返す。 「お疲れ様です」 「あー、里奈ちゃん。お疲れー」 「何か…芹沢先生とあったんですか?」 「ちょっとね。でも、もう大丈夫!片付いたから」 里奈ちゃんは芹沢さんの秘書である。 が、それは表向きの顔で、実は『企業法務の会』の会長、水城重治弁護士の娘さんだ。 水城弁護士は芹沢さんの師匠格にあたる。 そこで、大切な一人娘に社会勉強をさせたいと思っていた水城弁護士は、信頼のおける弟子の芹沢さんを頼って、彼の秘書として娘を置いて欲しいとお願いしてきたという訳だ。 今も昔も頭が上がらないらしい。 「それじゃあ私、芹沢先生にもコーヒーを持って行ってきます」 「うん、いつもありがとね」 律儀にお辞儀をする里奈ちゃんに、私は軽く手を振った。 彼女が淹れてくれたコーヒーを一口飲むと、机の上に置いてあるフォトフレームに手を伸ばす。 そこに飾られているのは、6ヶ月前に行われた、高校の同窓会で撮った集合写真である。 恩師を真ん中にして並ぶクラスメートの中から、『例の彼女』を見付けるのは簡単だった。 何故なら、彼女と私はいつも一緒に居たから。 ピースをして笑顔で写る自分の隣に、彼女もまた笑顔で写っていた。 「この時は何にも言ってなかったのになぁ…。ストーカーに遭ってるなんて」 まぁ、確かに同窓会の席で話す話題でもないか。 いつからなのだろう?とか、心当たりがあるのか?とか、気になる事は多々あったが、とにもかくにも彼女に会ってからだ。 「…よし!頑張ろう」 私は机に向かうと腕捲りをした。 まずは目の前に積まれた書類の山からやっつけていく事にした。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加