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「ちょっ…おいっ!青…」
呼び止める芹沢の言葉を、強引に遮るようにドアを閉めた。
「はぁー…疲れたー」
机に突っ伏している私の傍らに、そっとコーヒーカップが置かれた。
淹れ立てのコーヒーの芳ばしい香りに鼻を擽られて思わず顔を上げれば、そこには柔らかな笑みを浮かべた水城里奈の姿があった。
私も笑顔を返す。
「お疲れ様です」
「あー、里奈ちゃん。お疲れー」
「何か…芹沢先生とあったんですか?」
「ちょっとね。でも、もう大丈夫!片付いたから」
里奈ちゃんは芹沢さんの秘書である。
が、それは表向きの顔で、実は『企業法務の会』の会長、水城重治弁護士の娘さんだ。
水城弁護士は芹沢さんの師匠格にあたる。
そこで、大切な一人娘に社会勉強をさせたいと思っていた水城弁護士は、信頼のおける弟子の芹沢さんを頼って、彼の秘書として娘を置いて欲しいとお願いしてきたという訳だ。
今も昔も頭が上がらないらしい。
「それじゃあ私、芹沢先生にもコーヒーを持って行ってきます」
「うん、いつもありがとね」
律儀にお辞儀をする里奈ちゃんに、私は軽く手を振った。
彼女が淹れてくれたコーヒーを一口飲むと、机の上に置いてあるフォトフレームに手を伸ばす。
そこに飾られているのは、6ヶ月前に行われた、高校の同窓会で撮った集合写真である。
恩師を真ん中にして並ぶクラスメートの中から、『例の彼女』を見付けるのは簡単だった。
何故なら、彼女と私はいつも一緒に居たから。
ピースをして笑顔で写る自分の隣に、彼女もまた笑顔で写っていた。
「この時は何にも言ってなかったのになぁ…。ストーカーに遭ってるなんて」
まぁ、確かに同窓会の席で話す話題でもないか。
いつからなのだろう?とか、心当たりがあるのか?とか、気になる事は多々あったが、とにもかくにも彼女に会ってからだ。
「…よし!頑張ろう」
私は机に向かうと腕捲りをした。
まずは目の前に積まれた書類の山からやっつけていく事にした。
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