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私は、日下さんのデスクで、仕事が、終わるまで、ずっと待っていた。
明日、重役会があるから、その準備なんだって…。
「お待たせ、知佳ちゃん。お腹、空いただろう?」
「お腹空いてるのは、日下さんも、一緒じゃないですか。」
「…そうだね。」
日下さんは、人懐っこい笑顔で、笑いかけてくれた。
もう時計は、9時近かった…。
「…魚とかの生もの大丈夫?…俺さ、無性に、寿司が食べたいんだ。」
「…お寿司ですか。」
「向こうにも、日本食とか、和食って、看板上がってる店、一杯あるんだけどさぁ…なんか、微妙に、違うんだよね。
いつも食べてるのとさ。」
そう言って、連れてきてくれたのは、下町のお寿司やさん。
「…源さん。席、二人分、空いてる?
まだ、大丈夫かな?」
「おう、真治か。カウンターの隅で、よかったら、空いてるぞ。」
「…知佳ちゃんどうぞ。」
席を引いてくれる。
「真治、珍しいなぁ、女の子連れなんて。」
「…別に、いいだろ。…俺の彼女なんだから。
それよりさぁ、昨日まで、吉水の叔父さんのお伴でさぁ、アメリカ行ってたんだ…源さんの寿司が、食いたくて食いたくて…。」
「そりゃ、力入れて、旨いの握らなきゃな。」
美味しいお寿司を、お腹一杯食べさせてもらった。
「今日はさ、悪かったな。内の鈴村がさ、いやな思いさせちまったみたいで…。
でも、あの鈴村が、タジタジになってたよな…すげえな、あの子。」
「…麻衣のこと?」
「ああ。…あのさ、俺が、周り見えてないって、彼女、言ってたけどさ…どういうこと?」
麻衣達に、教えてもらったことを、日下さんに、話す…。
「ちょっと、待ってくれよ…俺が、モテてる?
有り得ないよ…そんなの。…俺、そんな実感、ないけどなぁ…。
そうなら、とっくに、ハーレム作って、浮かれてるって…。」
「…ハーレムって。それは、飛躍しすぎじゃない?」
「じゃあ、君は?」
「…実は、モテてる実感、私も、ありません。」
「俺達、似た者かなぁ。」
二人、顔を見合わせて、笑ってしまった。
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