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我が家の構造というか、部屋の配置は変わっている。
床面積は別に狭くないのに、二階建てでトイレや風呂、ゲストルームを除けば部屋は4つしかない。
一階の大半を占めるLDKと二階の母さん、兄貴、俺の部屋。
俺の部屋は諸事情で今は使えない上、もちろん母さんの部屋には入らないから、俺の出入りする部屋は2つ。
変態兄貴の部屋か、変態兄貴の入り浸るリビング。
そしてそこには、たいてい兄貴の類友がいる。
塾から帰ってヘロヘロの俺が家のドアを開けた瞬間、それは俺の視界に飛び込んできた。
「お帰りなさいませ、ご主人さま♪今からライムちゃんの一発芸を披露しますね、うっふん」
筋肉質な身体に対して明らかに小さいパツンパツンのメイド服を着た坊主頭が科をつくって立っていた。
とりあえず死ね。
部屋の方から聞こえる兄貴たちの不愉快な爆笑に、背負っていた疲労が倍増した気がした。
急速に表情を失っていく俺に気付いているのかいないのか、坊主メイドのライムちゃんとやらは、おもむろに地面に置いてあったボウルを持ち上げた。
「ご主人さま、ライム、頑張って全部ごっくんするから……ちゃんと、見ててくださいね?」
気持ち悪い上目遣いまでする徹底ぶり。
おまえがその何かをごっくんする前に俺が晩飯のサンドイッチをリバースするわ。
頼むから可及的速やかに消えてくれ。俺を巻き込むな。
そして、どう見たって体育会系の男が坊主のくせに敢えてカツラもせず堂々とメイド服着てたとか、くらいで挫けるな、俺。
「ライムいっきまーす!」
んく、んくっと何を意識してるんだかわからない不思議な飲み方で、明らかに液体ではない少しの水に浸った緑色のブツを飲み始めたライムちゃん。
キモい。逝っちまえ。
「……ぐえっぷ」
無言で横をすり抜けようとしたのに、ありえない速度でブツを飲み下した坊主は汚いげっぷをして俺の腕を掴んだ。
「酷いわ~、ご主人さま。ライム頑張ったのにぃ」
「離せ、触るな、死ね」
「きゃ、もう照れちゃって」
頬を染める坊主メイド。
リビングの扉から頭だけ出した兄貴たちがゲラゲラ笑う。
キレたら負けキレたら負けキレたら負けキレたら負け……。
「もう、今度こそ見ててくださいね」
そう言って今度は何処から持ってきたのか、ビールジョッキに入った粘っこくて白い液体(カルピスの原液におそらく片栗粉を混ぜたもの)を見せ付けてくる。
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