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キラキラと輝いていた瞳も、今は翳りを帯び、確かに俺を捉えているはずなのに
どこか遠くを映しているように感じられた。
必死に平常心を保とうとしている俺に、何か伝えようとしているかのように唇が微かに動く。
乾き、色も薄れた、その唇が……
耳を澄ませ、聞き漏らさぬように口を閉じ待つもしかし遂に言葉は発されることなく、道彦は意識を手放してしまった。
俺は日本に留まり続けた。
日に日に弱っていく道彦を見守り、誰からも傷付けられることがないようにと。
仕事の合間を縫っては見舞いに行った。
本当は少しでも道彦の側に長くいるために仕事を放り出してしまいたかったが、そうしようとして親父に止められた。
社会人として、何より道彦の兄として、そんな情けない様を晒すなと。
そう咎められ、俺は何も言えなくなり親父に従うがままに仕事を続けた。
確かに親父のいう通りだ。
……だがそんな当たり前の言葉を受け入れられず、まるで聞き分けができない子どものように言い訳をしては親父を罵ろうとしている自分も心の内にいるのが
一番気に食わなかった。
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