3人が本棚に入れています
本棚に追加
闇市はこの時代にしては活気が沸いていた。悪い意味で。
空腹である、と言っても小食なので屋台でパンとスープを買っただけ。
屋外にある木でできたボロボロのテーブルに置いて、同じくボロボロのチェアに座る。
備え付けの配食所と全く同じ先割れスプーンを使いスープをすする。
パンも食べやすい大きさにちぎって口へ運ぶ。
配食所の人間的な暖かさを省いた工業製品のような食べ物とは比べ物にならないほど香ばしく、見た目的にも美しい食べ物。
3/4くらい食べ終わった頃だろうか、周りが急に騒がしくなった。
私はうつむいて食べていたので顔を上げる。
こういう闇市とかいう場所には必ず何かしらの権力を持った者がいる。
そういう奴が私を見下ろしていた。周りを見ると私以外に食べていたものは全て立ち去っていて私だけが座っていた。
屈強そうな大男、物凄い数の人間をその脇に配置している。
顎を私のほうへ向けて右へ勢いよく振った。
あっちに行けの合図。
こういう闇市などにいるくらいだからおそらく野蛮な者達のトップに君臨する者だろう。下手に刺激するよりもおとなしく従ったほうがいい。
自分の権力を他人に見せ付けたいのだからこうやって機嫌をよく保たせるのがコツ、物わかりのいいやつには無闇に手を出さない。
席を替えるという手は使えないだろう。おそらく貸切状態を好むから。
どうせそろそろ食べ終わりだから、私は食べ物を取って移動した。座れそうなところは見た感じ無さそうだったので屋台の柱に寄りかかる。柱が小さな悲鳴を上げる。
食道をスープとパンが通る。空腹から釈放されるこの感覚は何度体験しても心地よい。何故か飽きないのが不思議だ。
スープの最後の1滴まで飲み干し、パンの最後の1欠けも残さず食べきる。
食べ物の器をゴミ箱へ放り投げ足早に立ち去る。さっきまで冷静に対処していたが、いざ離れてみると本当に絡まれなくてよかったと思う。
この国のAvalon事情は他国のそれと少し異なる。
この国は古くから個人情報の保護と自らの容姿昇華願望にあふれていた。
それは2000年代前半に<アバター>としてこの国を大きく盛り上げたのである。
この国のAvalonのプレイヤーに美男美女が多い理由はそこにある。アバターのように細部まで自分の理想を追求した結果だ。
たまにふざけた奇抜な格好をしている者もいるがそれはただ単にうけ狙いだろう。
私は前者なのでこの現実では最高でも良くはない方である。
最初のコメントを投稿しよう!