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「仕方ありません。これが、貴方の選んだ道なのですから」
魔王様の文句を流し、懐から魔王様に頂いた懐中時計を取り出す。
ハンターケース式の物で、竜頭が十二時に付いている。(つまり、六時に番があるタイプ)。
機能的には申し分無く、外観の美しさも群を抜いている。多分、魔王様の特注品だろう。
簡単に説明すると、竜頭はドラゴンの頭を模したもの。上蓋に散りばめられたトパーズの様なものは、トパーズドラゴンという乱獲により絶滅に瀕したドラゴンの皮。上蓋だけの細工ではなく、文字盤、その数字にはオブシディアンを極限まで薄く削ったものが使用されている。
これを、貰い物だと言って渡した辺り、魔王様は恥ずかしかったのだろうか。
竜頭を押し、時間を確認する。現在は九時三十七分。時間的に余裕がある。
「では魔王様。十一時までに身仕度を整えて下さい」
再び魔王様に一礼し、床とベッドのビンを集める。欠伸をする魔王様を尻目に部屋のドアを開け、外に出ようと礼をした所で呼び止められた。
「お前、まだその時計使ってんのか?」
顔を上げ、二、三拍置いて答える。
「まあ、初めて貰った物ですから」
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