最後の笑顔

2/2
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
「ねぇねぇ」 「なに?」 屋上で風を感じていると、おれの正面にニュッと顔を出して少女が呼び掛けた。 いきなりなのはいつものことだから、大して驚くこともせずにおれは応えた。 「うんと、たぶんね。近い内にわたしから手紙が届くよ、君に」 「手紙? 別にいま言ってくれればいいじゃん、その内容を」 「ふふ、そういうわけにはいかないんだなぁー」 少女は、そう言ってイタズラな笑みを浮かべた。 彼女が変なのもいつものことだから、おれはため息をついてまぶたを閉じた。 「ねぇちょっと、寝ないでよ」 「いでで」 しかし頬をつねられ、寝るに寝られなくなった。 「もー、わざわざ来てあげたんだから話し相手になってよ」 「えー、眠いんだけど」 「サボりぃ」 「そういうおまえもな」 日の高い午後の始まり。 そう、おれは授業をサボって屋上で寝ていたんだ。 だと言うのに、この女は……。 「まあ細かいことは気にしない。ねーぇー、なんか面白い話してぇー」 「しない」 グラグラとからだを揺さぶられるが、おれは無関心に応えていく。 「むぅ」 「頼むから寝かせろや」 「ぬーん」 「なんじゃそら」 はぁ……まったく、こいつと話すのは頭が痛い。 「寝ちゃうの?」 「ふぁ……ぁ。うん……」 「本気ぃ?」 「ん……うん……」 ほどよく暖かい陽光は、醒めていたはずの眠気を一気に呼び起こす。 彼女が何かを言っているが、正直聞き取れていない。 「ちょ、ちょっと、ねぇってば」 「……ん……」 「麻昼」 「……」 「……麻昼ぅ」 「……」 「……おやすみ。……もっと、話したかったのに」 その翌日。彼女の笑顔を見ることはおろか、話すことすら叶わなくなってしまった────。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!