赤い夕日

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『今日の放課後、屋上で待ってます』 そんな文字を連ねた用紙が、靴箱に入っていた。 嫌に小綺麗な文字で、ただそれだけ。 差出人の名前も、誰に宛てて書いたものかも何も書かれていない。 もしかしたら、間違って僕の処に入れたのかも知れないけれど。 何の用があってこんなことをするのだろうと。 頭の片隅に浮かんだ疑問。 一瞬、そんな疑問が浮かぶけど、すぐに消えて無くなっていく。 その理由は、単純明快だ。 僕に何か大事な用があるからこんなことをするのだ。 こんな紙切れで伝えるには役不足ともいえる、そんな大切な用事が。 けれどその内訳が、一向に思い当たらない。 何か恨みを買うこともしていないはず。 いや、心当たりが無いだけだ。 誰かの恨みを買うことなんて、無意識の内にあるものだ。 だったらこんなものに心当たりは無い、と言ってゴミ箱に捨てるのも忍びない。 かといって、差出人をわざわざ捜し当てるような、探偵ごっこもするような歳でもない。 暫くの間立ち尽くして考えた後、靴を履き替える。 ここでこうしていても時間だけが過ぎるだけだ。 二つ折りに畳まれた用紙を、制服の内ポケットに仕舞って昇降口を後にした。
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