グストーブドリ伝記

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三 沼ばたけ  ブドリは、いっぱいに灰をかぶった森の間を、町のほうへ半日歩きつづけました。灰は風の吹くたびに木からばさばさ落ちて、まるでけむりか吹雪ふぶきのようでした。けれどもそれは野原へ近づくほど、だんだん浅く少なくなって、ついには木も緑に見え、みちの足跡も見えないくらいになりました。  とうとう森を出切ったとき、ブドリは思わず目をみはりました。野原は目の前から、遠くのまっしろな雲まで、美しい桃いろと緑と灰いろのカードでできているようでした。そばへ寄って見ると、その桃いろなのには、いちめんにせいの低い花が咲いていて、蜜蜂みつばちがいそがしく花から花をわたってあるいていましたし、緑いろなのには小さな穂を出して草がぎっしりはえ、灰いろなのは浅い泥の沼でした。そしてどれも、低い幅のせまい土手でくぎられ、人は馬を使ってそれを掘り起こしたりかき回したりしてはたらいていました。  ブドリがその間を、しばらく歩いて行きますと、道のまん中に二人の人が、大声で何かけんかでもするように言い合っていました。右側のほうのひげの赭あかい人が言いました。 「なんでもかんでも、おれは山師張るときめた。」  するとも一人の白い笠かさをかぶった、せいの高いおじいさんが言いました。 「やめろって言ったらやめるもんだ。そんなに肥料うんと入れて、藁わらはとれるたって、実は一粒もとれるもんでない。」 「うんにゃ、おれの見込みでは、ことしは今までの三年分暑いに相違ない。一年で三年分とって見せる。」 「やめろ。やめろ。やめろったら。」 「うんにゃ、やめない。花はみんな埋めてしまったから、こんどは豆玉を六十枚入れて、それから鶏の糞かえし、百駄だん入れるんだ。急がしったらなんの、こう忙しくなればささげのつるでもいいから手伝いに頼みたいもんだ。」
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