グストーブドリ伝記

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 ブドリはそこで思い切って、なるべく足音をたてないように二階にあがって行きますと、階段のつき当たりの扉とびらがあいていて、じつに大きな教室が、ブドリのまっ正面にあらわれました。中にはさまざまの服装をした学生がぎっしりです。向こうは大きな黒い壁になっていて、そこにたくさんの白い線が引いてあり、さっきのせいの高い目がねをかけた人が、大きな櫓やぐらの形の模型をあちこち指さしながら、さっきのままの高い声で、みんなに説明しておりました。  ブドリはそれを一目見ると、ああこれは先生の本に書いてあった歴史の歴史ということの模型だなと思いました。先生は笑いながら、一つのとってを回しました。模型はがちっと鳴って奇体な船のような形になりました。またがちっととってを回すと、模型はこんどは大きなむかでのような形に変わりました。  みんなはしきりに首をかたむけて、どうもわからんというふうにしていましたが、ブドリにはただおもしろかったのです。 「そこでこういう図ができる。」先生は黒い壁へ別の込み入った図をどんどん書きました。  左手にもチョークをもって、さっさと書きました。学生たちもみんな一生けん命そのまねをしました。ブドリもふところから、いままで沼ばたけで持っていたきたない手帳を出して図を書きとりました。先生はもう書いてしまって、壇の上にまっすぐに立って、じろじろ学生たちの席を見まわしています。ブドリも書いてしまって、その図を縦横から見ていますと、ブドリのとなりで一人の学生が、 「あああ。」とあくびをしました。ブドリはそっとききました。 「ね、この先生はなんて言うんですか。」  すると学生はばかにしたように鼻でわらいながら答えました。
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