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◇◆◇◆ カランコロン。 まさか、三日も連続で同じ喫茶店のドアベルを鳴らすなどとは思ってもみなかった私。 「いらっしゃいませ、りおさん」 相変わらず建て付けの悪いドアの向こうに、相変わらず同じメモ帳を持って微笑むマスターがいる。 昨日までのところですっかり打ち解けていた私は、今日はある程度、深いところまで突っ込んだ話をマスターとするようになっていた。 「そういえばマスターって、独身なんですか?」 「もちろん。独り身でなきゃ、さすがにもっと商売に精を出してますよ」 「それもそうですね…。このお店、何年前からやってらっしゃるんですか?」 「ん、何年だったかな…?かれこれ十年ぐらいは経つと思いますけど…。いやぁ、昔はそれなりに繁盛してたんですけどねぇ」 「あ、そうなんですか?てっきり昔からお客さん少ないのかと…」 「はは、当時稼いだ蓄えがなけりゃ、今頃僕は借金地獄ですよ…。あ、りおさん、お腹空いてません?チャーハン作りましょうか?」 特別メニューなんでお代は結構ですよ!などと言いながら、マスターは奥のキッチンでフライパンを振り始めた。 「…………」 そのマスターの、何だか楽しそうな後ろ姿を見つめながら、私は不意に罪悪感に駆られる。 訳ありで、得体の知れない私みたいな女にも親切にしてくれているマスター。 でも、私が今日もここに来たのは単なる気晴らしのため。時間潰しのため。現実逃避のため。 あなたに会いに来た訳でも、あなたのコーヒーを飲みに来た訳でもないの。 だからマスター、 私にあんまり、優しくしないで。 あなたのその微笑みは、私の決心を揺さぶってしまうから。 「はい、お待たせ!チャーハンできましたよ!」 マスターのその声でふと我に返る。 見ると、パスタ用の皿に盛られたチャーハンが二つ、テーブルの上に並べられていた。 あぁ、なるほど。 マスターが食べたかったのね、チャーハン。 私のはそのついでか。 喫茶店には似つかわしくないレンゲで一口、食べてみる。 うん。 コーヒーなら負けるけど、チャーハンなら断然、私のほうが上ね。 「料理なら負けませんよ」 「え?何か、言いました?」 私のささやかな自慢が聞き取れなかったマスターは、不思議そうな顔をしてチャーハンを食べ続けていた。
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