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◇◆◇◆ ついにこの日が、きた。 七月七日。 私はもう、朝から上の空だった。 ホテルで摂った朝食も、味なんて全然わからなかった。 部屋に戻り、いつかデパートに出かけた際に彼が選んでくれたお気に入りの白いワンピースに袖を通す。 そしてその後、荷物をまとめホテルをチェックアウトした。 かさばるものは宅急便で送ったため、手荷物はほとんどない。 彼の家には、夜の七時前頃に行く予定でいた。 さすがにその時間なら家にいる可能性は高いと思ったし、七夕にかけて「7」という数字にあやかりたい気持ちもあった。 身軽になったところで特に行く当てもなく、マスターの店に顔を出そうかと思案もしたがやめておいた。 私はもっと、心と気持ちをギザギザに尖らせて、京都に来た筈だったのに。 彼に会うなり、胸倉を掴んで叫び散らしてやろうかなんて本気で考えていた筈なのに。 一日に数時間とはいえ、マスターと触れ合ったこの三日間で、私の心のギザギザがどんどん擦り減っていってしまったように思う。 これ以上、心が丸くなってしまったら…、 彼に会った時、私の口からは何も言葉が出てこないような気がした。 私はホテルの近くにあった商店街をひとり、そぞろ歩く。 あちこちに飾り付けられた笹の葉や短冊が風に揺れて、心なしか涼やかな気分になる。 ふと、託児所らしき施設の軒先に飾られたカラフルな短冊に目が止まった。 好きなアニメのキャラになりたいなどといった、微笑ましい夢や願い事が子供特有の大きな文字で書かれた短冊の数々を見て、私は不意に両親のことを思い出す。 私、このままじゃ駄目だ。 なぜか無性にそう思えてきて、 自分が情けなくて、 もういっそ、この場でしゃがみ込んで泣きたくなるぐらい、情けなくて。 私は流れる汗を拭くこともせず、しばらくの間、そこに立ち尽くしていた。 やがて、夕方が近づき、 私は意を決して、彼のアパートへ足を向けることにした。 どうなるかなんてわからないけど。 わからないけど、行かないことには何も始まらないし、終わりもしないのだから。 行くしか、ないのだ。 私は自分に、そう言い聞かせた。
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